生計は別、玄関も台所も別、それでも同居親族として小規模宅地等の特例を使えるのか。
使えるとして、被相続人が住んでいた部分を申告期限前に取り壊してしまったらどうなるのか。
結論を分ける鍵は「区分所有登記の有無」と「条文が何の継続を求めているか」の二つです。
あわせて、そもそも「一棟の建物」とは何を指すのか、区分所有登記の有無だけで決めてよいのかまでさかのぼって整理します。
一般化したモデルケースとして整理しています。
被相続人の持分に対応する宅地について、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例を適用できると考えられます。
生計が別であることも、被相続人の居住部分を申告期限前に取り壊したことも、この結論を妨げないと整理できます。
鍵になるのは二点です。
ひとつは、区分所有登記がされていない一棟の建物であれば、生計が別でも「同居親族」として扱われること。
もうひとつは、同居親族の類型が申告期限まで求めているのは「宅地の所有」と「その建物への居住」だけで、宅地の使い方の継続は求めていないことです。
ただし、この形をそのまま扱った公表裁決や裁判例は見当たりません。
条文と通達の解釈で組み立てる領域であることは踏まえておく必要があります。
同居親族の類型は、生計を一にしていたことを要件にしていません。
財布が別でも、食事が別でも、結論は変わりません。
判定の基準は平成25年度改正で構造上の独立性から区分所有登記の有無に変わりました。
玄関が二つあること自体は要件に影響しません。
区分所有登記がなければ、親族が居住していた部分に対応する敷地も対象に含まれます。
床面積の比で按分する必要はありません。
同居親族の類型が申告期限まで求めるのは、宅地を持ち続けることと、その建物に住み続けることだけです。
事業用や生計一親族の類型と、条文の書きぶりが違います。
取り壊したのが被相続人の居住部分であることが、この結論を支えています。
逆に自分の居住部分を取り壊していれば、居住の継続を満たさない可能性が高くなります。
どの部分が居住用の宅地に当たるかは、相続開始の直前の現況で判定します。
その後に駐車場にしても、この判定は動きません。
取壊しが結論に影響しない根拠は、条文を横に並べると見えてきます。
同居親族の類型だけが、宅地の使い方の継続を求めていません。
| 区分 | 申告期限まで求められるもの |
|---|---|
| 特定事業用宅地等 | 宅地を持ち続けること + その事業を営んでいること |
| 特定居住用宅地等 (同居親族) |
宅地を持ち続けること + その建物に居住していること 宅地の使い方の継続は求められていない |
| 特定居住用宅地等 (生計を一にする親族) |
宅地を持ち続けること + その宅地を自己の居住の用に供していること |
| 特定同族会社事業用宅地等 | 宅地を持ち続けること + 引き続き法人の事業の用に供されていること |
同居親族の類型に求められているのは「その建物に居住していること」であって、「その宅地を居住の用に供していること」ではありません。
建物が残り、そこに住み続けている限り、敷地の一部が駐車場になっても要件は欠けないという読み方になります。
| 事実関係 | 結論 | 理由 |
|---|---|---|
| 区分所有登記がされていない | 適用できる | 建物全体が対象となり、生計が別でも同居親族に当たる |
| 区分所有登記がされている | 難しい | 被相続人の居住部分に限られ、生計が別なら他の類型も使えない |
| 取り壊したのが被相続人の居住部分 | 適用できる | 自分の居住部分は残っており、その建物への居住が続いている |
| 取り壊したのが自分の居住部分 | 難しい | 申告期限までその建物に居住しているとはいえなくなる |
| 駐車場を自家用で使っている | 問題ない | 貸付事業用宅地等との区分の問題が生じない |
| 被相続人の持分を無償で使用していた | 前提を満たす | 地代や家賃を払っていた場合は貸付事業用宅地等の扱いになる |
申告期限前に取り壊した家屋であっても、相続開始時に存在していた以上、相続財産として評価し計上する必要があります。
特例の判定と財産評価は別の話であり、取り壊したから計上しなくてよいということにはなりません。
条文の文言、「一棟の建物」という概念そのものの根拠、区分所有登記という基準の当否、面積の計算方法は詳細版にまとめています。
特定居住用宅地等には、配偶者、同居親族、いわゆる家なき子、生計を一にする親族という類型があります。
生計が別である以上、生計を一にする親族の類型(租税特別措置法69条の4第3項2号ハ)は使えません。
子が自分の持家に住んでいる状況ですので、家なき子の類型も使えません。
したがって、同居親族の類型(同項2号イ)一本で組み立てることになります。
この選択がその後の結論をすべて決めます。
当該親族が相続開始の直前において当該宅地等の上に存する当該被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物(当該被相続人、当該被相続人の配偶者又は当該親族の居住の用に供されていた部分として政令で定める部分に限る。)に居住していた者であつて、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該建物に居住していること。
租税特別措置法69条の4第3項2号イこの条文には生計を一にしていたことという要件が現れません。
財布が別であること、食事を別に取っていたことは、この類型の判定に影響しないことになります。
条文のかっこ書きにある「政令で定める部分」は、次のように定められています。
一 被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物が建物の区分所有等に関する法律第一条の規定に該当する建物である場合 当該被相続人の居住の用に供されていた部分
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人又は当該被相続人の親族の居住の用に供されていた部分
そして、ここでいう「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」の意味は、通達で明確にされています。
措置法令第40条の2第4項及び第13項に規定する「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」とは、区分所有建物である旨の登記がされている建物をいうことに留意する。
租税特別措置法関係通達69の4-7の4登記上一棟の建物で区分所有登記がされていない以上、政令で定める部分は被相続人またはその親族が居住していた部分、すなわち建物全体になります。
増築部分に居住していた子は「一棟の建物に居住していた者」に当たり、同居親族の類型の対象になります。
玄関が二つあること、風呂と台所がそれぞれ備わっていること、構造上独立していることは、いずれも要件に影響しません。
平成25年度改正により、判定の基準が構造上の独立性から区分所有登記の有無に一本化されたためです(平成26年1月1日以後に開始した相続について適用)。
国税庁が公表している設例でも、区分所有登記のない一棟の建物に被相続人と生計を別にする子が居住していた事例について、その子は同居親族の類型に該当すると示されています(平成26年1月15日付国税庁情報の設例)。
建物内部で行き来ができる構造であることは、要件としては不要ですが、事実認定の場面では有利に働く事情です。
逆に、区分所有登記がされている場合は、被相続人の居住部分に対応する敷地に限られ、生計が別であれば他の類型も使えないため、結論が大きく変わります。
ここで一歩さかのぼった疑問が出てきます。
措置法にも国税通則法にも「一棟の建物」の定義はありません。
定義のない概念は、どの法律から借りてくればよいのでしょうか。
建築基準法の本則には「一棟」という語が一度も出てきません。
同法が使うのは「建築物」「一の建築物」です。
これに対し、租税特別措置法の本則で「一棟」が使われているのは、この同居親族の規定ただ一か所です。
立法者が建築基準法の概念を借りるつもりであれば、「一の建築物」と書いたはずです。
そもそも建築基準法の「一の建築物」は、規制の目的ごとに答えが変わる擬制です。
| 場面 | 扱い |
|---|---|
| 延焼のおそれのある部分 (2条1項6号) | 延べ面積の合計が500平方メートル以内なら一の建築物とみなす |
| 構造の基準 (20条2項ほか) | 基準の適用上一の建築物であっても別の建築物とみなす |
| 日影規制 (56条の2第2項) | 同一敷地内の二以上の建築物を一の建築物とみなす |
同じ建物が、防火では一つ、構造では別々、日影では一つになります。
相続財産という私法上の権利の客体の単位を画するには使えません。
なお「用途上不可分の関係にある二以上の建築物」(建築基準法施行令1条1号)は、建築物の個数の基準ではなく敷地の定義に出てくる語です。
一つの敷地に複数の建物がある場合に、どこまでが対象の敷地かを画する場面では、建築基準法の考え方が現に使われています。
空き家の特例では、被相続人が主として居住の用に供していたと認められる「一の建築物」に限るとされ(措置法施行令23条10項)、「用途上不可分の関係にある二以上の建築物のある一団の土地」という建築基準法施行令1条1号そのままの文言も使われています(同令23条11項)。
したがって、建築基準法を参照すること自体が誤りなのではありません。
参照してよい場面(敷地の範囲)と、参照してはならない場面(一棟の建物という単位)を取り違えないことが要点になります。
措置法施行令が区分所有法1条を引用している以上、まず区分所有法1条にいう「一棟の建物」と同じ意味に読むのが素直です。
不動産登記法は、この二つを書き分けています。
| 語 | 意味 | 使われている条文 |
|---|---|---|
| 一棟の建物 | 物理的な棟の単位 | 不動産登記法2条22号、44条1項、48条1項、区分所有法1条 |
| 一個の建物 | 登記上の単位 | 不動産登記法2条5号・21号・23号 |
附属建物は「一体のものとして一個の建物として登記されるもの」と定義されており(不動産登記法2条23号)、「一棟」とは書かれていません。
したがって、登記上は主たる建物と附属建物で一個の建物であっても、物理的に別棟であれば「一棟の建物」には当たらないと読むのが素直です。
ただしこの点を明示した通達や裁決は見当たらず、判断の拠り所が乏しい領域です。
条文を文言どおり読むと、疑問が残ります。
区分所有法1条は構造上の区分と利用上の独立性しか要件にしておらず、登記を要件としていません。
そのまま読めば、登記がなくても「1条の規定に該当する建物」に当たってしまうのではないか、という疑問です。
この疑問は正当で、条文の書きぶりは確かに不用意です。
それでも通達の形式基準が支持できる理由は、次のとおりです。
「それぞれ所有権の目的とすることができる」という規定です。
現実に所有権が設定されて初めて区分所有権が生じ(2条1項)、その目的たる部分が専有部分になります(同条3項)。
通達の注書きは、区分所有建物を被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法2条の定義によるとし、そこでは専有部分が属する一棟の建物とされています。
条文を狭めたのではありません。
構造上区分所有しうる建物が当然に区分所有建物に該当するわけではなく、区分所有の意思を表示する必要があると解されている、と説明されています。
空き家の特例にも同じ文言があり(措置法35条5項2号)、その通達も「区分所有建物である旨の登記がされている建物をいう」としています。
この場面だけの便宜的な解釈ではありません。
構造上の区分だけを捉えたいとき、措置法は「区分所有法2条1項に規定する建物の部分に相当するもの」と書きます。
「該当する建物」と書いたのは、これとは別の意味です。
1条を可能性のレベルで読むと、構造上区分された二世帯住宅がすべて区分所有建物の側に落ちます。
改正で救おうとした対象が、そのまま外れてしまいます。
理論上の隙間は残ります。
立案担当者の説明が「通常は登記がされている建物となる」と留保しているのに対し、通達は「登記がされている建物をいう」と言い切っています。
私法上、区分所有権の成立に登記は成立要件ではなく公示・対抗要件ですので、登記がないまま区分所有の意思が客観的に表示されている事態は理論上ありえます。
登記がないのに課税庁が実質的に区分所有建物だと主張して否認した事例は、公表裁決を悉皆で確認しても見当たりません。
この通達は納税者に有利な方向へ働くものであり、課税庁が自らの解釈通達に反する主張をするのは困難です。
リスクが集中しているのは逆方向、すなわち区分所有登記があるのに実質は一体だと主張する場面です。
令和3年6月21日裁決は、区分所有建物とは区分所有建物である旨の登記がされている建物をいうと解するのが相当としたうえで、分割処分ができないといった事情は「区分所有の意思に基づいて区分所有建物の登記をしたことを否定するものでもない」としています。
改正前の事案ですが、平成28年9月29日裁決も「区分せずに考えるということ自体が、事実を離れたものである」としています。
対処は、生前に登記を整序しておくことに事実上限られます。
ただし所有名義や持分が異なる建物は合併登記ができないため(不動産登記法56条1項2号・3号)、名義を一致させてから合併登記という二段階が必要になり、その過程で贈与税や登録免許税などの負担が生じます。
相続開始後では間に合いません。
判定基準が政令と通達の段階で具体化されたものであることも、意識しておく価値があります。
平成25年度税制改正の大綱には「区分所有」という語が一度も出てきません。
大綱は「一棟の二世帯住宅で構造上区分のあるもの」を対象とするとしか述べておらず、区分所有登記という基準は施行令と通達で形になりました。
どの範囲の宅地が居住用として扱われるかも、区分所有登記の有無で決まります。
……当該被相続人等の……居住の用に供されていた部分(当該居住の用に供されていた部分が被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物(建物の区分所有等に関する法律第一条の規定に該当する建物を除く。)に係るものである場合には、当該一棟の建物の敷地の用に供されていた宅地等のうち当該被相続人の親族の居住の用に供されていた部分を含む。)に限るものとする。
租税特別措置法施行令40条の2第4項同旨は通達69の4-7の注書きにも置かれています。
区分所有登記がない一棟の建物であれば、親族が居住していた部分に対応する敷地も含めて居住用の宅地となり、床面積の比で按分する必要はありません。
同居親族の類型が申告期限まで求めているのは、その宅地を引き続き有していることと、当該建物に引き続き居住していることの二つだけです。
「その宅地を居住の用に供し続けていること」という文言はありません。
この点は他の類型と読み比べると明確になります。
特定事業用宅地等(同項1号イ)は事業を営んでいることを、生計を一にする親族の居住用(同項2号ハ)はその宅地を自己の居住の用に供していることを、それぞれ明文で求めています。
同居親族の類型だけが、宅地の使い方の継続を求めていません。
申告期限までに宅地の一部を譲渡または貸付けした場合の取扱いを定めた通達(69の4-18)も、その注書きで準用の対象としているのは同項3号の要件であって、居住用の2号は入っていません。
居住用には宅地の用途の継続要件がないため、そもそも準用する必要がないという構造として読めます。
どの部分が居住用の宅地に当たるかの判定は、相続開始の直前の現況で行います。
根拠は条文の文言そのものです。措置法施行令40条の2第4項は「相続の開始の直前において」居住の用に供されていた部分に限ると定めています。
同じ趣旨は通達にも現れます。
ただし通達69の4-9は、贈与税の配偶者控除を受けた店舗兼住宅を前提とする留意規定です。
一般則の根拠としては射程がやや狭いため、条文の文言を主に置き、通達は補強として扱う方が安全です。
相続開始後に取り壊したことや駐車場にしたことは、この判定を動かしません。
取り壊した部分に対応する敷地も、対象から外れないことになります。
条文にいう「当該建物」は、かっこ書きにより政令で定める部分に限定されており、区分所有登記がない場合は被相続人またはその親族が居住していた部分、すなわち一棟の建物全体を指します。
自分が居住していた増築部分は残っており、そこに引き続き居住しているため、当該建物への居住は継続していると評価できます。
取り壊されたのが被相続人の居住部分であって、自分の居住部分ではないことが結論を支えています。
仮に自分の居住部分を取り壊していれば、申告期限まで当該建物に居住しているとはいえなくなり、結論は逆に振れる可能性が高くなります。
申告期限までに建物を建て替えた場合について、工事中で現に居住していない期間があっても、その親族により居住の用に供されると認められる部分は居住の用に供されているものとして取り扱う通達があります。
その注書きで、同項2号イが準用対象として明示されています。
措置法第69条の4第3項第2号イ及びハ、同項第3号並びに同項第4号イ及びロの要件の判定については、上記に準じて取り扱う。
租税特別措置法関係通達69の4-19の注書き(同69の4-17の注書きも同文)工事中で現に居住していない場合ですら継続として扱う取扱いがある以上、現に居住が続いている場面で継続を欠くと解するのは整合しないという説明ができます。
駐車場が自家用で賃貸に出していないことは、有利な事実です。
賃貸に出した場合、対象範囲の判定は相続開始の直前で固定されるため直ちに要件に抵触するわけではありませんが、貸付事業用宅地等との区分や選択の議論を招きます。
申告期限までは賃貸に出さない方が無難です。
増築は宅地の所有にも当該建物への居住にも影響しません。
一部取壊しと増築は実質的に部分的な建て替えであり、上記の建て替えに関する通達の考え方の範囲内と整理できます。
特例の対象になるのは、要件を満たす親族が相続または遺贈により取得した持分に応じた部分です(租税特別措置法施行令40条の2第12項)。
もともと自分が持っていた持分や、家族が持っている持分は対象になりません。
共有で取得した場合の考え方については、各共有者の有する権利は単独所有の権利と性質および内容が異ならず共有物の全体に及ぶことを前提に、居住の用に供されていた部分に相当する面積に、取得した持分を乗じて計算するとした裁決があります(平成27年6月25日裁決)。
特定の利用区分に対応する部分を狙って持分を取得したという主張は退けられており、あくまで地積に持分を乗じる計算になります。
| 土地 | 地積 | 被相続人の持分 | 特例の対象面積 |
|---|---|---|---|
| 甲地 | 200平方メートル | 2分の1 | 100平方メートル |
| 乙地 | 150平方メートル | 4分の1 | 37.5平方メートル |
| 合計 | 137.5平方メートル(限度面積330平方メートル以内のため全部について80パーセント減額) | ||
数値は説明のためのモデルです。
実際の計算では、地積と持分を必ず登記事項証明書で確定させてから行います。
手元のメモで持分の合計が1にならない場合、いずれかの読み取りが誤っている可能性が高く、減額される金額に直結します。
小規模宅地等の特例は、当初申告での選択と面積計算をやり直すことが難しい制度です。
一団の土地に用途の異なる複数の建物がある場合の敷地面積の計算について、唯一の方法があるとはいえないから納税者の計算に誤りがあるとはいえず更正の請求は認められないとした裁判例もあります(東京高裁令和7年4月16日判決)。
持分と地積を確定させたうえで、当初申告で固めておくことが重要になります。