税務論点整理|ケーススタディ

区分所有登記のない二世帯住宅で、
被相続人の居住部分を取り壊したとき

生計は別、玄関も台所も別、それでも同居親族として小規模宅地等の特例を使えるのか。
使えるとして、被相続人が住んでいた部分を申告期限前に取り壊してしまったらどうなるのか。
結論を分ける鍵は「区分所有登記の有無」と「条文が何の継続を求めているか」の二つです。

想定するケース

一般化したモデルケースとして整理しています。

  • 二筆の宅地(仮に甲地200平方メートル、乙地150平方メートル)にまたがって、一棟の家屋が建っている
  • 家屋は当初の建築部分と後年の増築部分から成り、登記上は一棟の建物。区分所有登記はされていない
  • 当初建築部分に被相続人が、増築部分に子の家族が居住していた
  • 宅地も家屋も被相続人と子の共有。子は相続開始前から自分の持分を持っていた
  • それぞれの居住部分に風呂も台所もあり、玄関も二つ。ただし土間を介して建物内部で行き来ができる
  • 食事も家計も別で、被相続人と子は生計が別。住民票上の住所は同一
  • 相続開始後、申告期限前に、被相続人が居住していた当初建築部分を取り壊し、跡地を子家族の自家用駐車場(賃貸はしていない)とし、その一部に部屋を増築した
  • 子の家族は増築部分に引き続き居住している

結論

被相続人の持分に対応する宅地について、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例を適用できると考えられます。
生計が別であることも、被相続人の居住部分を申告期限前に取り壊したことも、この結論を妨げないと整理できます。

鍵になるのは二点です。
ひとつは、区分所有登記がされていない一棟の建物であれば、生計が別でも「同居親族」として扱われること。
もうひとつは、同居親族の類型が申告期限まで求めているのは「宅地の所有」と「その建物への居住」だけで、宅地の使い方の継続は求めていないことです。

ただし、この形をそのまま扱った公表裁決や裁判例は見当たりません。
条文と通達の解釈で組み立てる領域であることは踏まえておく必要があります。

1

生計が別でも
同居親族に当たる

同居親族の類型は、生計を一にしていたことを要件にしていません。
財布が別でも、食事が別でも、結論は変わりません。

2

玄関や台所が別でも
関係ない

判定の基準は平成25年度改正で構造上の独立性から区分所有登記の有無に変わりました。
玄関が二つあること自体は要件に影響しません。

3

敷地は
一棟の建物の全体

区分所有登記がなければ、親族が居住していた部分に対応する敷地も対象に含まれます。
床面積の比で按分する必要はありません。

4

条文は宅地の
使い方の継続を求めていない

同居親族の類型が申告期限まで求めるのは、宅地を持ち続けることと、その建物に住み続けることだけです。
事業用や生計一親族の類型と、条文の書きぶりが違います。

5

取り壊したのが
どちらの部分かで分かれる

取り壊したのが被相続人の居住部分であることが、この結論を支えています。
逆に自分の居住部分を取り壊していれば、居住の継続を満たさない可能性が高くなります。

6

対象範囲は
相続開始の直前で固定される

どの部分が居住用の宅地に当たるかは、相続開始の直前の現況で判定します。
その後に駐車場にしても、この判定は動きません。

継続要件の書きぶりの違い

取壊しが結論に影響しない根拠は、条文を横に並べると見えてきます。
同居親族の類型だけが、宅地の使い方の継続を求めていません。

区分 申告期限まで求められるもの
特定事業用宅地等 宅地を持ち続けること + その事業を営んでいること
特定居住用宅地等
(同居親族)
宅地を持ち続けること + その建物に居住していること
宅地の使い方の継続は求められていない
特定居住用宅地等
(生計を一にする親族)
宅地を持ち続けること + その宅地を自己の居住の用に供していること
特定同族会社事業用宅地等 宅地を持ち続けること + 引き続き法人の事業の用に供されていること
ここが分かれ目

同居親族の類型に求められているのは「その建物に居住していること」であって、「その宅地を居住の用に供していること」ではありません。
建物が残り、そこに住み続けている限り、敷地の一部が駐車場になっても要件は欠けないという読み方になります。

結論が変わる分岐

事実関係 結論 理由
区分所有登記がされていない 適用できる 建物全体が対象となり、生計が別でも同居親族に当たる
区分所有登記がされている 難しい 被相続人の居住部分に限られ、生計が別なら他の類型も使えない
取り壊したのが被相続人の居住部分 適用できる 自分の居住部分は残っており、その建物への居住が続いている
取り壊したのが自分の居住部分 難しい 申告期限までその建物に居住しているとはいえなくなる
駐車場を自家用で使っている 問題ない 貸付事業用宅地等との区分の問題が生じない
被相続人の持分を無償で使用していた 前提を満たす 地代や家賃を払っていた場合は貸付事業用宅地等の扱いになる
見落としやすい点

申告期限前に取り壊した家屋であっても、相続開始時に存在していた以上、相続財産として評価し計上する必要があります。
特例の判定と財産評価は別の話であり、取り壊したから計上しなくてよいということにはなりません。

条文の文言、政令・通達の根拠、面積の計算方法は詳細版にまとめています。